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Let's運動会D
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借り物は揃った。あとはゴールを目指すのみ─。ゴールへとまっしぐらなはるか+ほたる+借り物みちる。
まだ他の参加者たちは手間取っているようだ。
やはり蟹フォークと骸骨を同時に手に入れられたのが大きかったか。
しめしめ、これで星野の野望を阻止できる・・・と思ったのも束の間。
星野達も観客席から離れコースへと復帰してきた。
しかし、はるかは陸上記録保持者。
ほたると二人三脚とはいえそんなに簡単に追いつかれるわけはないとタカをくくっていた。が・・・
「ぬあ〜〜〜〜〜みちるさーーーーーーん!!!」
な、なんだアレ!?足が見えない!恐ろしい勢いでこちらに向かってくるその姿はさながら・・・・
「虫みたいだな・・・」
ぼそりと一言。
「なんだとこの野郎ー!」
さらに加速。しまった─!あいつどんだけいい耳してんだよ。
あまりの加速に家元はなかば地面を引きずられている。
「引きずられていても姿勢を乱さない・・・。ああ、これが私の美意識・・・」
家元自分にウットリ。
美意識に酔っているのかあまりの速さに意識が飛びそうになっているのかイマイチわかりにくいけれど・・・。
そんな家元をなおも引きずりながら星野が叫ぶ。
「みちるさーーーん、この勝負、ボクが勝ったらデート!デートですよ!約束の、デートォォォ!」
何ィィィィィ!?約束の、ってどういう意味だゴラー!
「みちる、あいつの言ってることは全部嘘だよね?」
「さあ?」
ああ、なんというつれないお返事。やっぱりまだ怒ってる。ごめんなさい、なんでもしますオヒィ様!
「要は勝たせなければ良いのではなくて?」
ムム、まったくその通り。こうなったら・・・
「ほたる、みちる!ごめん!」
「え?」
「きゃ!」
叫ぶが早いか足にほたるをしがみつかせ、みちるに骸骨を持たせて抱えあげる。
「千のー風にな───って─!」
今まで多少お遊びのつもりが残っていた気を引き締め、いざ全力疾走。ってはるか、なんかソレ違う。
星野も負けじと後を追う。
「みちるさーーーーーん、逃げれば逃げるほど俺は本気惚れしますー!」
「く、このっ・・・!」
これ以上本気惚れされるともっと面倒くさい。でも、負けたらみちるは星野の魔の手に─。
デートって、デートって、一体どこまでする気なんだぁぁぁぁぁ!
ゴールまであとわずか数メートル。悶々としだしたところを星野が追ってくる。
─デート、映画、暗闇、魔の手・・・。デート、温泉、混浴、魔の手・・・。デート、ショッピング、休憩、魔の手・・・─
「絶対に!させるかー!」
運動場に響き渡る絶叫をかますとみちるを担ぎ上げ、ゴールとは反対方向、すなわち迫ってくる星野の方へと向いて立ち止まった。
ゴールまではわずか一歩分。このままゴールへ入っても問題ないはずなのに・・・
「追いついたぞー!」
満面の笑みをたたえて星野が接近してくる。
あと5メートル、4、3、2、1・・・
「かかったな!」
空いている方の腕を、星野がみちる目掛けて飛び込んでくるタイミングに合わせて力強く前に出す。
ベキィッ!と鈍い音がして星野と家元が後ろに吹き飛んだ。
「ひ、ひどい・・!」
二人が体勢を立て直しているうちにくるりと後ろを向いて一歩。ついにゴールテープが破られた。
「やったぞー!これで、みちるも、豪華賞品も僕達のものだ!」
数々の妨害、星野とのデート疑惑・・・。艱難辛苦乗り越えてついに、ついに─!!
喜びに震えるはるかにまたもや教師が近づいて一言。
「えーっと、天王さん、申し上げにくいのですが・・・・借り物のクジをもう一回見てください」
「はい?」
ポケットにしまい込んでいた紙を広げ直す。
「頭文字を追って下さい」
「バ・・・・蟹・・・骸・・・み・・・ルー?」
「いえ、一番最初の音だけを」
「ば・・か・・が・・・み・・・るー?」
─馬鹿が見る!?
ミシミシミシっと拳に血管が浮き上がる。
「えーっと、これは、つまりどういうことなんでしょう、か、ねーぇ・・・・?」
「豪華賞品というのは、嘘、なんです・・・ぅ!」
聞きだしてみると、事の起こりはこうであった、らしい。
年々減る参加者をどうにかしたいという事で教師達は頭を痛めていた。
会議の結果、賞品を豪華にしてみたらどうかという意見が出た。
お決まりのノートや図書券では子供も親も満足しないであろうということで予算を組んではみたのだが
せいぜい一位に蟹料理専門店の食事券、もしくは生演奏を聴けるレストランでの食事券が精一杯、という状態。
しかし、これでは参加者はそれほど増えてくれないだろう、そう思った教師達はさりげなく
「蟹」 「生演奏」 「プライスレス」 「涎が出ちゃう!」
などなどあること無いこと休憩時間中の子供達のそばでわざと話込み、
噂をお持ち帰りした生徒から親へと話が広まるように仕向けたのだという。
「じゃあ、食事券も最初から嘘だった、と?」
「いえ、ち、違うんです!違うんです!食事券は本当に渡すつもりだったんですー!」
食事券は確かに渡すつもりであった。ところが、よりにもよって賞品購入係の教師が費用を持って雲隠れ。
買い直す予算もなく、途方にくれた教師達は考えた。
─全員遂行不可能な競技にしてしまえば賞品も必要なくなるんじゃないか?─
万一誰かがゴールしたとしても、子供の噂が広まりすぎたということにしておけば良い。
ばら撒かれていたエロ本も、意味不明なクイズも、借り物競争も、すべては賞品を手に入れさせないため。
およそ教師とは思えない発想。だが、教師もまた必死だったのだ・・・。
「ま、仕方がないですよね・・・」
振り回された形になったが仕方がない。怒りを静めて観客席に戻ろうとしたその時、背後から泣き声が・・・。
「じゃ、じゃあ、みちるさんと一日が過ごせる券、ってのは・・・?」
「はぁ?」
「うっ・・・・ぐぅ・・涎が出ちゃう一日・・・てのも、嘘・・・?プライスレスな幸福、は・・・?」
見れば星野が泣き崩れている。男泣き、見事なまでの男泣きである。
どうやら星野のところへ噂が届く頃には
すっかり彼の理想どおりのことが起きるかのように摩り替わってしまっていたらしい。
その傍らでは家元も、
「セーラー服ーーーーぅ・・・」
ま、この子は放っておいてもその内自力で手に入れちゃうでしょうから、放っておくとして・・・
「星野・・・」
男泣きしながらうずくまる星野にそっと声をかける。
「ふん、同情なんか、いらないぜ」
「ああ、わかっているさ」
穏やかに微笑み、はるかは星野の目の前に紙を広げるのだった。
─バ・カ・ガ・ミ・ルッ
「てめっ許さねぇーーー!」
この調子ならヤツが立ち直るのもすぐだろう。いつまでもグズグズされてるのは気持ちが悪い。
楽しい運動会もこれで終幕。
こんな運動会、あなたも参加してみませんか・・・?
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